12.4 「性的マイノリティ」に関する課題と対応
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12.4.1 「性的マイノリティ」に関する理解と学校における対応
性的マイノリティに関する大きな課題は、当事者が社会の中で偏見の目にさらされるなどの差別を受けてきたことです。少数派であるがために正常と思われず、場合によっては職場を追われることさえあります。このような性的指向などを理由とする差別的取扱いについては、現在では不当なことであるという認識が広がっていますが、いまだに偏見や差別が起きているのが現状です。
文部科学省では、性同一性障害や性的指向・性自認に係る児童生徒に対するいじめを防止するため、「いじめ防止対策推進法」に基づく「いじめの防止等のための基本的な方針」を平成29年に改定し、「性同一性障害や性的指向・性自認について、教職員への正しい理解の促進や、学校として必要な対応について周知する」ことが追記されました。教職員の理解を深めることは言うまでもなく、生徒指導の観点からも、児童生徒に対して日常の教育活動を通じて人権意識の醸成を図ることが大切です。学校においては、具体的に以下のような対応が求められます。
① 学級・ホームルームにおいては、いかなる理由でもいじめや差別を許さない適切な生徒指導・人権教育等を推進することが、悩みや不安を抱える児童生徒に対する支援の土台となります。教職員としては、悩みや不安を抱える児童生徒のよき理解者となるよう努めることは当然であり、このような悩みや不安を受け止めることの必要性は、「性的マイノリティ」とされる児童生徒全般に共通するものです。
② 「性的マイノリティ」とされる児童生徒には、自身のそうした状態を秘匿しておきたい場合があることなどを踏まえつつ、学校においては、日頃から児童生徒が相談しやすい環境を整えていくことが望まれます。
そのためには、まず教職員自身が理解を深めるとともに、心ない言動を慎むことはもちろん、見た目の裏に潜む可能性を想像できる人権感覚を身に付けていくことが求められます。
③ 当該児童生徒の支援は、最初に相談(入学などに当たって児童生徒の保護者からなされた相談を含む。)を受けた者だけで抱え込むことなく、組織的に取り組むことが重要であり、学校内外の連携に基づく「支援チーム」をつくり、ケース会議などのチーム支援会議を適時開催しながら対応を進めるようにします。
教職員間の情報共有に当たっては、児童生徒自身が可能な限り秘匿しておきたい場合があることなどに留意が必要です。一方で、学校として効果的な対応を進めるためには、教職員間で情報共有し組織で対応することは欠かせないことから、当事者である児童生徒やその保護者に対し、情報を共有する意図を十分に説明・相談し理解を得る働きかけも忘れてはなりません。
④ 学校生活での各場面における支援の一例として、表4に示すような取組が、学校における性同一性障害に係る児童生徒への対応を行うに当たって参考になります。
学校においては、「性的マイノリティ」とされる児童生徒への配慮と、他の児童生徒への配慮との均衡を取りながら支援を進めることが重要です。「性的マイノリティ」とされる児童生徒が求める支援は、当該児童生徒が有する違和感の強弱などに応じて様々です。また、こうした違和感は、成長に従い減ずることも含めて変動があり得るものとされているため、学校として、先入観をもたず、その時々の児童生徒の状況などに応じた支援を行うことが必要です。さらに、他の児童生徒や保護者との情報の共有は、当事者である児童生徒や保護者の意向などを踏まえ、個別の事情に応じて進める必要があります。
医療機関を受診して診断がなされなかった場合であっても、医療機関との相談の状況、児童生徒や保護者の意向などを踏まえつつ、児童生徒の悩みや不安に寄り添い、支援を行うことが重要です。
⑤ 指導要録の記載については学齢簿の記載に基づき行い、卒業後に法に基づく戸籍上の性別の変更などを行った者から卒業証明書などの発行を求められた場合は、戸籍を確認した上で、当該者が不利益を被らないよう適切に対応します。
12.4.2 「性的マイノリティ」に関する学校外における連携・協働
(1)当事者である児童生徒の保護者との関係
保護者が、その子供の性同一性に関する悩みや不安などを受容している場合は、学校と保護者とが緊密に連携しながら支援を進めることが必要です。保護者が受容していない場合にも、学校における児童生徒の悩みや不安を軽減し問題行動の未然防止などを進めることを目的として、保護者と十分に話し合い、支援を行っていくことが考えられます。
(2)教育委員会等による支援 略
(3)医療機関との連携
医療機関による診断や助言は学校が専門的知見を得る重要な機会となるとともに、教職員や他の児童生徒・保護者などに対する説明のための情報にもなります。また、児童生徒が性に違和感を持つことを打ち明けた場合であっても、当該児童生徒が適切な知識を持っているとは限らず、そもそも性同一性障害なのか、その他の傾向があるのかも判然としていない場合もあることなどを踏まえ、学校が支援を行うに当たっては、医療機関との連携を図ることが重要です。
我が国においては、専門的な医療機関が少なく、専門医や専門的な医療機関については関連学会などの提供する情報を参考とすることも考えられます。また、都道府県等の精神保健福祉センターでは、性同一性障害の相談を受けており、必要な関係機関につなぐようにしています。医療機関との連携に当たっては、当事者である児童生徒や保護者の意向を踏まえることが原則ですが、当事者である児童生徒や保護者の同意が得られない場合でも、具体的な個人情報に関連しない範囲で一般的な助言を受けることはその後の有効な支援に結び付きます。
(4)その他の留意点 略
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