[13/13]第13章 多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導

第13章 多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導

13.1 発達障害に関する理解と対応

13.1.1 障害者差別解消法と合理的配慮

発達障害を含む障害者への差別の解消に関して、平成28年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が施行されました。この法律では、障害を理由とする「不当な差別的な取扱い」の禁止と障害者への「合理的配慮の提供」が求められています。不当な差別的な取扱いとは障害者の権利利益を侵害することです。合理的配慮の提供とは、障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合は、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮に努めなければならないということです。

発達障害のある児童生徒への合理的配慮については、学習上又は生活上の困難を改善・克服するための配慮として、読み書きや計算、記憶などの学習面の特性による困難さ、及び不注意や多動性、衝動性など行動面の特性による困難さ、対人関係やコミュニケーションに関する特性による困難さに対する個別的な配慮が必要になります。学習内容についての変更・調整をしたり、ICT等を活用するなどして情報提供やコミュニケーション、教材等への配慮、体験的な学習の機会を設けたりすることなどが考えられます。また、失敗経験の繰り返しによる意欲の低下や対人関係でのトラブル等による二次的な問題を防ぐためには、心理面、健康面の配慮も大切になります。

特定の児童生徒に対する合理的配慮を学級集団の中で提供するためには、合理的配慮を特別視せずにお互いを認め合い支え合う学級づくりを行うことが重要な基盤になると考えられます。

13.1.2 発達障害に関する理解

「発達障害」とは、「発達障害者支援法」において、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。」と定義されています。また、「発達障害者」とは、「発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」であり、「社会的障壁」とは、「発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」とされています。この定義には、障害は個人の心身機能が要因であるという「医学モデル」と、「障害者の権利に関する条約」の中で示された障害は社会や環境の在り方や仕組みがつくりだしているという「社会モデル」の二つの考え方が反映されています。

「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~(令和3年6月30日改訂)」では、発達障害も含め教育的ニーズの内容を障害種ごとに具体化し、就学先となる学校や学びの場を判断する際に重視すべき事項等が整理されています。最新の医学的な診断基準では、知的障害や言語障害なども神経発達障害のカテゴリーに含まれていますが、文部科学省では主として、自閉症、注意欠陥多動性障害、学習障害を発達障害として扱い、知的障害や言語障害とは分けて整理しています。

(…以下略…)

13.1.3 発達障害に関する課題

発達障害は、生まれつきの脳の働き方の違いにより、対人関係や社会性、行動面や情緒面、学習面に特徴がある状態です。学習活動において困難さを抱えるものもあれば、容易に取り組めるものもあります。学業成績が優秀であっても生活上の困難さを抱えている場合もあります。

そのため、発達障害による能力的な偏りに気付かれず、苦手なことは誰にでもあること、経験や努力不足、意欲の問題、甘えやわがままなどと誤って捉えられてしまうことも少なくありません。つまずきや失敗が繰り返され、苦手意識や挫折感が高まると、心のバランスを失い、暴力行為、不登校、不安障害など様々な二次的な問題による症状が出てしまうことがあります。これらの二次的な問題による不適応の問題を考える際は、見えている現象への対応だけでなく、見えない部分にも意識を向け、背景や要因を考えて対応することが大切です。

(…第13章 以下略…)

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