「はじめに」「Ⅰ.我が国の教育をめぐる現状・課題・展望」略
Ⅱ.今後の教育政策に関する基本的な方針
(総括的な基本方針・コンセプト)
○ 上述の我が国の教育をめぐる現状・課題・展望を踏まえ、本計画では2040年以降の社会を見据えた教育政策におけるコンセプトとも言うべき総括的な基本方針として「持続可能な社会の創り手の育成」及び「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を掲げる。両者は今後我が国が目指すべき社会及び個人の在り様として重要な概念であり、 これらの相互循環的な実現に向けた取組が進められるよう教育政策を講じていくことが必要である。
(1)2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成
○ グローバル化や気候変動などの地球環境問題、少子化・人口減少、都市と地方の格差などの社会課題やロシアのウクライナ侵略による国際情勢の不安定化の中で、一人一人のウェルビーイングを実現していくためには、この社会を持続的に発展させていかなければならない。特に我が国においては少子化・人口減少が著しく、将来にわたって財政や社会保障などの社会制度を持続可能なものとし、現在の経済水準を維持しつつ、活力あふれる社会を実現していくためには、一人一人の生産性向上と多様な人材の社会参画を促進する必要がある。また、社会課題の解決と経済成長を結び付けて新たなイノベーションにつながる取組を推進することが求められる。Society 5.0 においてこれらを実現していくために不可欠なのは「人」の力であり、「人への投資」を通じて社会の持続的な発展を生み出す人材を育成していかなければならない。
○こうした社会の実現に向けては、一人一人が自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、「持続可能な社会の創り手」になることを目指すという考え方が重要である。将来の予測が困難な時代において、未来に向けて自らが社会の創り手となり、課題解決などを通じて、持続可能な社会を維持・発展させていくことが求められる。
○ Society 5.0 においては、「主体性」、「リーダーシップ」、「創造力」、「課題設定・解決能力」、「論理的思考力」、「表現力」、「チームワーク」などの資質・能力を備えた人材が期待されている。こうした要請も踏まえ、個々人が自立して自らの個性・能力を伸長するとともに、多様な価値観に基づいて地球規模課題の解決等をけん引する人材を育成していくことも重要である。
(2)日本社会に根差したウェルビーイングの向上
○ ウェルビーイングとは身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含むものである。また、個人のみならず、個人を取り巻く場や地域、社会が持続的に良い状態であることを含む包括的な概念である。
○ ウェルビーイングの国際的な比較調査においては、自尊感情や自己効力感が高いことが人生の幸福をもたらすとの考え方が強調されており、これは個人が獲得・達成する能力や状態に基づくウェルビーイング(獲得的要素)を重視する欧米的な文化的価値観に基づく側面がある。 同調査によると日本を含むアジアの文化圏の子供や成人のウェルビーイングは低いとの傾向が報告されることがあるが、我が国においては利他性、協働性、社会貢献意識など、人とのつながり・関係性に基づく要素(協調的要素)が人々のウェルビーイングにとって重要な意味を有している。このため、我が国においては、ウェルビーイングの獲得的要素と協調的要素を調和的・一体的に育む日本発のウェルビーイングの実現を目指すことが求められる。こうした「調和と協調(Balance and Harmony) 」に基づくウェルビーイングの考え方は世界的にも取り入れられつつあり、我が国の特徴や良さを生かすものとして国際的に発信していくことも重要である。
○ 日本社会に根差したウェルビーイングの要素としては、「幸福感(現在と将来、自分と周りの他者)」、 「学校や地域でのつながり」、「協働性」、「利他性」、「多様性への理解」、「サポートを受けられる環境」、「社会貢献意識」、「自己肯定感」、「自己実現(達成感、キャリア意識など) 」、「心身の健康」 、「安全・安心な環境」などが挙げられる。これらを、教育を通じて向上させていくことが重要であり、その結果として特に子供たちの主観的な認識が変化したかについてエビデンスを収集していくことが求められる。なお、協調的幸福については、 「同調圧力」につながるような組織への帰属を前提とした閉じた協調ではなく、 他者とのつながりやかかわりの中で共創する基盤としての協調という考え方が重要であるとともに、物事を前向きに捉えていく姿勢も重要である。
○ ウェルビーイングと学力は対立的に捉えるのではなく、個人のウェルビーイングを支える要素として学力や学習環境、家庭環境、地域とのつながりなどがあり、それらの環境整備のための施策を講じていくという視点が重要である。また、社会情動的スキルやいわゆる非認知能力を育成する視点も重要である。さらに、組織や社会を優先して個人のウェルビーイングを犠牲にするのではなく、個人の幸せがまず尊重されるという前提に立つことが必要である。
○ 子供たちのウェルビーイングを高めるためには、教師のウェルビーイングを確保することが必要であり、学校が教師のウェルビーイングを高める場となることが重要である。子供の成長実感や保護者や地域との信頼関係があり、職場の心理的安全性が保たれ、労働環境などが良い状態であることなどが求められる。加えて、職員や支援人材など学校の全ての構成員のウェルビーイングの確保も重要である。こうしたことが学びの土壌や環境を良い状態に保ち、学習者のウェルビーイングを向上する基盤となり、結果として家庭や地域のウェルビーイングにもつながるものとなる。
○ 第2期教育振興基本計画において掲げられるとともに、第3期教育振興基本計画においてもその理念が継承された「自立」、「協働」、「創造」については、「自立」と「協働」は個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実に対応する方向性であり、「創造」は主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善を通じてもたらされるものである。これまでの計画の基軸を発展的に継承し、誰もが地域や社会とのつながりや国際的なつながりを持つことができるような教育を推進することで、個人と社会のウェルビーイングの実現を目指すことが重要である。
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