1.2生徒指導の構造
1.2.1 2軸3類4層構造
(…略…)
(1)生徒指導の2軸
児童生徒の課題への対応の時間軸に着目すると、図1の右端のように2分されます。
① 常態的・先行的(プロアクティブ)生徒指導
日常の生徒指導を基盤とする発達支持的生徒指導と組織的・計画的な課題未然防止教育は、積極的な先手型の常態的・先行的(プロアクティブ)生徒指導と言えます。
② 即応的・継続的(リアクティブ)生徒指導
課題の予兆的段階や初期状態における指導・援助を行う課題早期発見対応と、深刻な課題への切れ目のない指導・援助を行う困難課題対応的生徒指導は、事後対応型の即応的・継続的(リアクティブ)生徒指導と言えます。
(2)生徒指導の3類
生徒指導の課題性(「高い」・「低い」)と課題への対応の種類から分類すると、図1のように以下の3類になります。
① 発達支持的生徒指導
全ての児童生徒の発達を支えます。
② 課題予防的生徒指導
全ての児童生徒を対象とした課題の未然防止教育と、課題の前兆行動が見られる一部の児童生徒を対象とした課題の早期発見と対応を含みます。
③ 困難課題対応的生徒指導
深刻な課題を抱えている特定の児童生徒への指導・援助を行います。
(3)生徒指導の4層
図2は、図1の2軸3類に加えて、生徒指導の対象となる児童生徒の範囲から、全ての児童生徒を対象とした第1層「発達支持的生徒指導」と第2層「課題予防的生徒指導:課題未然防止教育」、一部の児童生徒を対象とした第3層「課題予防的生徒指導:課題早期発見対応」、そして、特定の生徒を対象とした第4層「困難課題対応的生徒指導」の4層から成る生徒指導の重層的支援構造を示したものです。以下で、具体的に各層について説明します。
1.2.2発達支持的生徒指導
発達支持的生徒指導は、特定の課題を意識することなく、全ての児童生徒を対象に、学校の教育目標の実現に向けて、教育課程内外の全ての教育活動において進められる生徒指導の基盤となるものです。発達支持的というのは、児童生徒に向き合う際の基本的な立ち位置を示しています。すなわち、あくまでも児童生徒が自発的・主体的に自らを発達させていくことが尊重され、その発達の過程を学校や教職員がいかに支えていくかという視点に立っています。すなわち、教職員は、児童生徒の「個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支える」ように働きかけます。
発達支持的生徒指導では、日々の教職員の児童生徒への挨拶、声かけ、励まし、賞賛、対話、及び、授業や行事等を通した個と集団への働きかけが大切になります。例えば、自己理解力や自己効力感、コミュニケーション力、他者理解力、思いやり、共感性、人間関係形成力、協働性、目標達成力、課題解決力などを含む社会的資質・能力の育成や、自己の将来をデザインするキャリア教育など、教員だけではなくスクールカウンセラー(以下「SC」という。)等の協力も得ながら、共生社会の一員となるための市民性教育・人権教育等の推進などの日常的な教育活動を通して、全ての児童生徒の発達を支える働きかけを行います。このような働きかけを、学習指導と関連付けて行うことも重要です。意図的に、各教科、「特別の教科道徳」(以下「道徳科」という。)、総合的な学習(探究)の時間、特別活動等と密接に関連させて取組を進める場合もあります。
1.2.3課題予防的生徒指導:課題未然防止教育
課題予防的生徒指導は、課題未然防止教育と課題早期発見対応から構成されます。課題未然防止教育は、全ての児童生徒を対象に、生徒指導の諸課題の未然防止をねらいとした、意図的・組織的・系統的な教育プログラムの実施です。
具体的には、いじめ防止教育、SOSの出し方教育を含む自殺予防教育、薬物乱用防止教育、情報モラル教育、非行防止教室等が該当します。生徒指導部を中心に、SC等の専門家等の協力も得ながら、年間指導計画に位置付け、実践することが重要です。
1.2.4課題予防的生徒指導:課題早期発見対応
課題早期発見対応では、課題の予兆行動が見られたり、問題行動のリスクが高まったりするなど、気になる一部の児童生徒を対象に、深刻な問題に発展しないように、初期の段階で諸課題を発見し、対応します。例えば、ある時期に成績が急落する、遅刻・早退・欠席が増える、身だしなみに変化が生じたりする児童生徒に対して、いじめや不登校、自殺などの深刻な事態に至らないように、早期に教育相談や家庭訪問などを行い、実態に応じて迅速に対応します。
特に、早期発見では、いじめアンケートのような質問紙に基づくスクリーニングテストや、SCやスクールソーシャルワーカー(以下「SSW」という。)を交えたスクリーニング会議によって気になる児童生徒を早期に見いだして、指導・援助につなげます。
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1.2.5困難課題対応的生徒指導
いじめ、不登校、少年非行、児童虐待など特別な指導・援助を必要とする特定の児童生徒を対象に、校内の教職員(教員、SC、SSW等)だけでなく、校外の教育委員会等(小中高等学校又は特別支援学校を設置する国公立大学法人、学校法人、大学を設置する地方公共団体の長及び学校設置会社を含む。)、警察、病院、児童相談所、NPO等の関係機関との連携・協働による課題対応を行うのが、困難課題対応的生徒指導です。困難課題対応的生徒指導においては、学級・ホームルーム担任による個別の支援や学校単独では対応が困難な場合に、生徒指導主事や教育相談コーディネーターを中心にした校内連携型支援チームを編成したり、校外の専門家を有する関係機関と連携・協働したネットワーク型支援チームを編成したりして対応します。
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いじめを例にすると、いじめの疑いのある段階からの発見やいじめを認知した段階で迅速な対処を行う課題早期発見対応、そして、いじめ解消に向けた困難課題対応的生徒指導が重要であることは言うまでもありませんが、SNSによるいじめなど、教職員に見えにくいいじめへの対応の難しさを考えると、全ての児童生徒を対象に前向きな取組を行うことが求められます。人権意識を高める観点から、例えば、国語の授業で他人を傷つけない言語表現を学習する。あるいは、市民性教育の観点から、ネットでの誹謗中傷的書き込みの他者への影響等を、道徳科や特別活動等で学習する。こうした取組は、教職員が日常的に児童生徒に働きかける発達支持的生徒指導(常態的)と言えます。同時に、いじめが起きないように積極的にいじめに関する課題未然防止教育(先行的)を、児童会・生徒会と協力して展開することも大切です。
全ての児童生徒を対象にした、人を傷つけない言語表現の学習、情報モラル教育、法教育といった発達支持的生徒指導は、児童生徒の実態と合ったものであれば、いじめの抑止効果を持つことが期待されます。また、課題予防的生徒指導(課題早期発見対応)や困難課題対応的生徒指導を通して、起こった事象を特定の児童生徒の課題として留めずに、学級・ホームルーム、学年、学校、家庭、地域の課題として視点を広げて捉えることによって、全ての児童生徒に通じる指導の在り方が見えてきます。
このように、発達支持的生徒指導や課題予防的生徒指導(課題未然防止教育)の在り方を改善していくことが、生徒指導上の諸課題の未然防止や再発防止につながり、課題早期発見対応や困難課題対応的生徒指導を広い視点から捉え直すことが、発達支持的生徒指導につながるという円環的な関係にあると言えます。その意味からも、これからの生徒指導においては、特に常態的・先行的(プロアクティブ)な生徒指導の創意工夫が一層必要になると考えられます。
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