[02/13]1.1 生徒指導の意義

第1部 生徒指導の基本的な進め方

第1章生徒指導の基礎

1.1生徒指導の意義

1.1.1生徒指導の定義と目的

(1)生徒指導の定義

学校教育の目的は、「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」(教育基本法第1条)を期することであり、また、「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養う」(同法第2条第2号)ことが目標の一つとして掲げられています。この学校教育の目的や目標達成に寄与する生徒指導を定義すると、次のようになります。

生徒指導の定義

生徒指導とは、児童生徒が、社会の中で自分らしく生きることができる存在へと、自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育活動のことである。なお、生徒指導上の課題に対応するために、必要に応じて指導や援助を行う。

生徒指導は、児童生徒が自身を個性的存在として認め、自己に内在しているよさや可能性に自ら気付き、引き出し、伸ばすと同時に、社会生活で必要となる社会的資質・能力を身に付けることを支える働き(機能)です。したがって、生徒指導は学校の教育目標を達成する上で重要な機能を果たすものであり、学習指導と並んで学校教育において重要な意義を持つものと言えます。

(2)生徒指導の目的

生徒指導の目的は、教育課程の内外を問わず、学校が提供する全ての教育活動の中で児童生徒の人格が尊重され、個性の発見とよさや可能性の伸長を児童生徒自らが図りながら、多様な社会的資質・能力を獲得し、自らの資質・能力を適切に行使して自己実現を果たすべく、自己の幸福と社会の発展を児童生徒自らが追求することを支えるところに求められます。

生徒指導の目的

生徒指導は、児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる自己実現を支えることを目的とする。

生徒指導において発達を支えるとは、児童生徒の心理面(自信・自己肯定感等)の発達のみならず、学習面(興味・関心・学習意欲等)、社会面(人間関係・集団適応等)、進路面(進路意識・将来展望等)、健康面(生活習慣・メンタルヘルス等)の発達を含む包括的なものです。

また、生徒指導の目的を達成するためには、児童生徒一人一人が自己指導能力を身に付けることが重要です。児童生徒が、深い自己理解に基づき、「何をしたいのか」、「何をするべきか」、主体的に問題や課題を発見し、自己の目標を選択・設定して、この目標の達成のため、自発的、自律的、かつ、他者の主体性を尊重しながら、自らの行動を決断し、実行する力、すなわち、「自己指導能力」を獲得することが目指されます。

児童生徒は、学校生活における多様な他者との関わり合いや学び合いの経験を通して、学ぶこと、生きること、働くことなどの価値や課題を見いだしていきます。その過程において、自らの生き方や人生の目標が徐々に明確になります。学校から学校への移行、学校から社会への移行においても、主体的な選択・決定を促す自己指導能力が重要です。

1.1.2生徒指導の実践上の視点

これからの児童生徒は、少子高齢化社会の出現、災害や感染症等の不測の社会的危機との遭遇、高度情報化社会での知識の刷新やICT活用能力の習得、外国の人々を含め多様な他者との共生と協働等、予測困難な変化や急速に進行する多様化に対応していかなければなりません。

児童生徒の自己指導能力の獲得を支える生徒指導では、多様な教育活動を通して、児童生徒が主体的に課題に挑戦してみることや多様な他者と協働して創意工夫することの重要性等を実感することが大切です。以下に、その際に留意する実践上の視点を示します。

(1)自己存在感の感受

児童生徒の教育活動の大半は、集団一斉型か小集団型で展開されます。そのため、集団に個が埋没してしまう危険性があります。そうならないようにするには、学校生活のあらゆる場面で、「自分も一人の人間として大切にされている」という自己存在感を、児童生徒が実感することが大切です。また、ありのままの自分を肯定的に捉える自己肯定感や、他者のために役立った、認められたという★挿入★を育むことも極めて重要です。

(2)共感的な人間関係の育成

学級経営・ホームルーム経営(以下「学級・ホームルーム経営」という。)の焦点は、教職員と児童生徒、児童生徒同士の選択できない出会いから始まる生活集団を、どのようにして認め合い・励まし合い・支え合える学習集団に変えていくのかということに置かれます。失敗を恐れない、間違いやできないことを笑わない、むしろ、なぜそう思ったのか、どうすればできるようになるのかを皆で考える支持的で創造的な学級・ホームルームづくりが生徒指導の土台となります。そのためには、自他の個性を尊重し、相手の立場に立って考え、行動できる相互扶助的で共感的な人間関係をいかに早期に創りあげるかが重要となります。

(3)自己決定の場の提供

児童生徒が自己指導能力を獲得するには、授業場面で自らの意見を述べる、観察・実験・調べ学習等を通じて自己の仮説を検証してレポートする等、自ら考え、選択し、決定する、あるいは発表する、制作する等の体験が何より重要です。児童生徒の自己決定の場を広げていくために、学習指導要領が示す「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進めていくことが求められます。

(4)安全・安心な風土の醸成

児童生徒一人一人が、個性的な存在として尊重され、学級・ホームルームで安全かつ安心して教育を受けられるように配慮する必要があります。他者の人格や人権をおとしめる言動、いじめ、暴力行為などは、決して許されるものではありません。お互いの個性や多様性を認め合い、安心して授業や学校生活が送れるような風土を、教職員の支援の下で、児童生徒自らがつくり上げるようにすることが大切です。そのためには、教職員による児童生徒への配慮に欠けた言動、暴言や体罰等が許されないことは言うまでもありません。

1.1.3生徒指導の連関性

(1)生徒指導とキャリア教育

生徒指導と同様に、児童生徒の社会的自己実現を支える教育活動としてキャリア教育があります。生徒指導を進める上で、両者の相互作用を理解して、一体となった取組を行うことが大切です。

小・中学校学習指導要領の総則において、キャリア教育について「児童(生徒)が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること。」と示されています。キャリア教育を学校教育全体で進めるという前提の下、これまでの教科の学びや体験活動等を振り返るなど、教育活動全体の取組を自己の将来や社会につなげていくことが求められています。

進路指導については、「その中で、生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、組織的かつ計画的な進路指導を行うこと。」(中学校)とあります。つまり、キャリア教育の中に進路指導が包含されており、高等学校の学習指導要領にも同様の内容が示されています。さらに、小学校学習指導要領第6章、中学校及び高等学校学習指導要領第5章の特別活動の学級活動・ホームルーム活動(以下「学級・ホームルーム活動」という。)の内容項目(3)が「一人一人のキャリア形成と自己実現」となっており、小・中・高を通じたキャリア教育の積み重ねの重要性が指摘されています。

いじめや暴力行為などの生徒指導上の課題への対応においては、児童生徒の反省だけでは再発防止力は弱く、自他の人生への影響を考えること、自己の生き方を見つめること、自己の内面の変化を振り返ること及び将来の夢や進路目標を明確にすることが重要です。したがって、生徒指導とキャリア教育は、深い関係にあると言えます。

(2)生徒指導と教育相談

教育相談は、生徒指導から独立した教育活動ではなく、生徒指導の一環として位置付けられるものであり、その中心的役割を担うものと言えます。教育相談の特質と、生徒指導の関係は以下のとおりです。

① 個別性・多様性・複雑性に対応する教育相談

教育相談とは、一人一人の児童生徒の教育上の諸課題について、本人又は保護者などにその望ましい在り方について助言をするものと理解されてきました。教育相談には、個別相談やグループ相談などがありますが、児童生徒の個別性を重視しているため、主にに焦点を当てて、面接やエクササイズ(演習)を通して個の内面の変容を図ることを目指しています。それに対して、生徒指導は主に集団に焦点を当て、学校行事や体験活動などにおいて、集団としての成果や発展を目指し、集団に支えられた個の変容を図ります。

(以下略)

前の演習へ
[01/13]まえがき
次の演習へ
[03/13]1.2 生徒指導の構造
総合資料シリーズ 一覧へ
総合資料演習 一覧ページ
トップページへ
きょうさい対策ブログ

(お知らせ)2025年実施教採向け 動画講座は12月初旬にリリース予定です。