【解説084】いじめ防止対策推進法。いじめの定義、基本方針、防止のための2組織。

YouTubeでも情報更新しています!

現在35条の条文からなる、「いじめ防止対策推進法」について扱う。2011年の中学生いじめ自殺事件を受ける形で、「いじめ防止対策推進法」が2013年に制定された。今回は、その内容をピックアップして紹介する。

いじめの定義について

いじめの定義も頻出である。

いじめ防止対策推進法第2条(定義)

この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

当該の児童等が苦痛を感じていたらいじめである。

なお、「いじめの定義の変遷」という文科省資料があるので、一読しておくとよいだろう。いじめられた側に寄り添った定義に変化しているのがわかる。

いじめの定義の変遷

昭和61年 「学校としてその事実を確認しているもの」

平成6年 「いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと」

平成18年 「当該児童生徒が、(中略)精神的な苦痛を感じているもの」

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/08/20/1400030_003.pdf (文部科学省「いじめの定義の変遷」)



学校がやらなければならないこと

教職員等に求められる基本姿勢

いじめ防止対策推進法第8条(学校及び学校の教職員の責務)

学校及び学校の教職員は、基本理念にのっとり、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民、児童相談所その他の関係者との連携を図りつつ、学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。

当たり前のことしか書いていない。ちゃんといじめ防止に取り組みなさい、もし起きた場合はすみやかに対応せよ、ということである。

いじめ防止対策推進法第15条(学校におけるいじめの防止)
学校の設置者及びその設置する学校は、児童等の豊かな情操と道徳心を培い、心の通う対人交流の能力の素地を養うことがいじめの防止に資することを踏まえ、全ての教育活動を通じた道徳教育及び体験活動等の充実を図らなければならない。

道徳や体験活動を充実させよ、ということ。

基本方針の策定

学校では、いじめ防止に向けて、国や地方公共団体の基本方針を参考にして”学校版の”基本方針を作成する必要がある。

(それぞれで基本方針を策定する)

国 →国の基本方針(「いじめ防止等のための基本的な方針」)

地方公共団体 →地方いじめ防止基本方針 (努力義務)

学校 →学校いじめ防止基本方針

国が策定する、「いじめ防止基本方針」のリンクを貼っておく。

いじめの問題に対する施策:文部科学省

いじめ防止のための2つの組織

いじめ防止のために、”広域的に連携するための組織”と、”学校内の組織”を1つずつ紹介する。



まず”広域的に連携する組織”の「いじめ問題対策連絡協議会」について。これは学校や教育委員会、児童相談所など各機関で連携をとるために、地方公共団体が設置できる組織である。

いじめ防止対策推進法第14条(いじめ問題対策連絡協議会)
地方公共団体は、いじめの防止等に関係する機関及び団体の連携を図るため、条例の定めるところにより、学校、教育委員会、児童相談所、法務局又は地方法務局、都道府県警察その他の関係者により構成されるいじめ問題対策連絡協議会を置くことができる。

各自治体で「いじめ問題対策連絡協議会」が設置されているので(設置してない自治体もあるが)、受験自治体のものを一度チェックしておくとよいだろう。

つづいて”学校内の組織”である、「いじめの防止等の対策のための組織」について。こちらは各学校が必ず設置しなければならない組織である。

いじめ防止対策推進法第22条(学校におけるいじめの防止等の対策のための組織)
学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする。

校内の組織ではあるが、専門家の知識も得るため教職員以外に心理福祉等の専門家も交えるのである。



(演習)

問1.「いじめ防止対策推進法」に関する、次の文の正誤判定をせよ。

(1) 「インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進」について、「インターネットを通じていじめが行われた場合において、当該いじめを受けた児童等又はその保護者は、当該いじめに係る情報の削除を求めるときは、必要に応じ、法務局又は地方法務局の協力を求めることができるが、発信者情報の開示を請求することはできない。」と示されている。

→(誤)いじめ防止推進の立場の法律で、わざわざいじめられた側に不利になることは書かないのでは?と見当がつくだろう。第19条によれば「当該いじめを受けた児童等又はその保護者は、当該いじめに係る情報の削除を求め、又は発信者情報(中略)の開示を請求しようとするときは、必要に応じ、法務局又は地方法務局の協力を求めることができる。」とされている。インターネット上の被害は、いじめられた側が行動できるように定められている。

(2) 「学校におけるいじめの防止等のための組織」について、「学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめ防止等の対策のための組織を置くものとするが、当該学校の教職員はこの組織の委員となることはできない」

→(誤)学校の教職員を抜きにしていじめ防止の組織が成り立つわけがないので常識的にもバツとわかる。



(3) 「公立の学校に係る対処」について「地方公共団体が設置する学校は、いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるときは、その緊急性から、当該地方公共団体の教育委員会を通さず、重大事態が発生した旨を、当該地方公共団体の長に報告しなければならない。」と示されている。

→(誤)教育委員会を通さず、という点がバツです。教育委員会が知らないではダメだろう。

大きな事案の場合は、「重大事態」という言葉が使われることを知っておこう。

いじめ防止対策推進法第28条1項(学校の設置者又はその設置する学校による対処)

学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。

(なお、二の「相当の期間」とは年間30日以上の欠席を指す)

問2. 次の記述は、「いじめ防止対策推進法」に定める組織の一部について述べたものである。

いじめ防止対策推進法第14条に定める「いじめ問題対策連絡協議会」は、いじめの防止等に関係する機関及び団体の連携を図るため、(  ①   )が設置する法律上(   ②  )の組織であり、学校、教育委員会、児童相談所、法務局又は地方法務局、都道府県警察その他関係者により構成される。また、同法第22条に定める「いじめの防止等の対策のための組織」は、学校におけるいじめの防止等に関する措置を実行的に行うため、当該学校が設置する法律上(   ③  )の組織であり、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成される。

(1) ①に適するものを次の中から選べ。

【選択肢】国、地方公共団体

(2)②に適するものを次の中から選べ。

【選択肢】必置、任意設置

(3)③に適するものを次の中から選べ。

【選択肢】必置、任意設置

(解)

(1) →地方公共団体 (2) →任意設置 (3) →必置

(1)(2)「いじめ問題対策連絡協議会」は地方公共団体が設置する任意設置(おくことができる)組織である。

(3)「いじめの防止等の対策のための組織」は各学校が設置しなければならない組織である。

今回はここまで!

【PR 2024年実施教採向け】
シリーズ累計2500名以上の先輩たちが利用したわかりやすい動画講義です。教職教養の基礎を効率的に学習しよう!↓