【易しめ解説18】学習理論、認知説。ケーラーの洞察説、トールマンのサインゲシュタルト説、バンデューラのモデリング学習

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前回扱ったレスポンデント条件づけ、試行錯誤説、オペラント条件付けなどの「連合説」と呼ばれる理論では、刺激と反応の結びつきによって学習が進むというものでした。

今回は刺激と反応の単なる結びつきではなく、刺激の受け止め方や意味づけが変わることで学習が成立するという立場の「認知説」から3つ紹介します。

ケーラーの洞察(どうさつ)説

ケーラーは、チンパンジーを檻に入れ、檻の外にあるバナナをどのようにとるのか観察しました。チンパンジーに課せられた課題は、手元の短い棒を使って、檻の外にある長い棒を引き寄せ、その長い棒によってバナナを引き寄せることができる、という多少複雑なものです。チンパンジーは試行錯誤をずっと続けるのではなく、しばらくどのようにすればバナナを手に入れられるのかを考た上で、それらの手順をこなしました。つまり試行錯誤を繰り返して偶然成功するのではなく、その場全体の状況を把握して、見通しをもって行動したのです。このように、試行錯誤によらず全体の状況から思考することによって学習がすすむという考え方を洞察説といいます。



トールマンのサイン・ゲシュタルト説

トールマンはネズミを用いた迷路学習の実験を行いました。ネズミは、餌という刺激がない状態でただ走るだけでも学習の下地(認知地図)を頭に描いており、餌が置かれることで「どのようにすれば餌まで到達できるのか」を認知地図から考え行動するのです。このことからトールマンは、学習は刺激と反応の連合ではなく、目的と手段が結びつく関係であるという考えのサイン・ゲシュタルト説を提唱しました。

バンデューラのモデリング学習

バンデューラは他者の行動やその結果をモデルとして観察することによって、観察者の行動に変化が生ずることをモデリング学習(観察学習)とよび、社会的学習理論と呼ばれる理論を築きました。

バンデューラがモデリング学習を提唱するきっかけとなった実験で「ボボ人形」の実験というものがあります。人形に暴力的な行動をする大人の姿を見た子どもが、大人がしたのと同様に人形に暴力的になるという内容です。この実験は悪い意味でのモデリング学習の一例を表していると言えますね。映像はYouTubeなどで視聴可能です。

またもう一つ、バンデューラに関しては動機づけ分野で「自分がうまく実行できそうだ」という自己効力感(セルフ・エフィカシー)という言葉を提唱しています。あまりメジャーな用語ではないと思われますが、念のため押さえておきましょう。



(演習)

4問扱います。前回記事までの内容も含みます。

(演習1)

次の(ア)〜(オ)の記述のうち、適切ではないものを2つ選べ。(2017年実施39)

(ア) パブロフは、条件刺激と無条件刺激を交互に繰り返すことにより、無条件刺激に対して起こしていた反応を条件刺激に対しても起こすようになるということを提唱した。これをオペラント条件づけという。
(イ) スキナーは、ある刺激に対して望ましい反応が生起したときに報酬を与えることによって、その反応の生起率を高めることを動物の実験によって説明した。
(ウ) トールマンは、学習目標とそれを達成するための手段とが存在するとき、学習の成立とは、目標と手段との機能的関係が頭の中に認知図としてできあがることであると考えた。これをサイン・ゲシュタルト説という。
(エ) ケーラーは、いくつかの道具を組み合わせなければバナナを取れない状況にした実験をチンパンジーに行い、問題解決に至る様子をみて、洞察説を提唱した。
(オ) ソーンダイクは、モデルを見てそれに類似した新たな反応を形成したり、既存の反応を修正したりすることをモデリング学習として提唱した。

(解)(ア)と(オ)

(ア)→オペラント条件づけでなくレスポンデント条件づけが正しい。

(オ)→モデリング学習の提唱者はバンデューラ。ソーンダイクはネコの問題箱の研究から試行錯誤学習、効果の法則を提唱しています。

(演習2)

次の各文は、教育心理学上有名な人物について述べたものである。(2011年実施39)
(1) アメリカ合衆国の心理学者で、教育心理学の始祖ともいわれている[ ア ]は、行動のもたらす結果について学習が進むことを効果の法則と呼び、多くの失敗を重ねながら成功をもたらす行動に絞っていく過程を試行錯誤学習と呼んだ。
(2) ウェルトハイマーとともに、ゲシュタルト心理学を創設したドイツの心理学者の[ イ ]は、柵の外にあるバナナをとるチンパンジーを使った実験で、その課題解決の知恵の基本的な仕組みとして、洞察説を提唱した。
(3) 新行動主義の創始者であるアメリカ合衆国の[ ウ ]は、学習にとって最も必要な条件は問題事態の認知であるととらえ、学習を何が何に導くかという手段―目的関係の形成と見なすサイン・ゲシュタルト説を提唱した。
【選択肢】ソーンダイク、ケーラー、トールマン、ワトソン、サーストン

(解)

(1)ソーンダイク (2)ケーラー (3)トールマン



(演習3)

次の文は、教育と関係した心理学の歩みについて述べたものである。[ ア ]〜[ ウ ]に入る人物を選択肢から選びなさい。(2008年実施42改題)
[ ア ]は20世紀の初期、アメリカにおける教育心理学の研究に寄与した。彼は学習、教科などに関する研究を進め「教育心理学」などを著わし、教育心理学の基礎を築いた。
また、[ イ ]は、社会的学習理論の代表者の一人で、モデリングや代理強化による観察学習の理論をうちたてた。
[ ウ ]は、学習すべき材料の重要な部分は、最初から学習者に最終的な形態では与えられないので、学習者がそれを発見しなければならないという発見学習を提唱した。
【選択肢】ピアジェ、ソーンダイク 、バンデューラ、ブルーナー

(解)

[ア]ソーンダイク

[イ]バンデューラ

[ウ]ブルーナー

[ウ]のブルーナーは現時点では消去法で解答できればOKです。

(演習4)

学習の理論における認知説の記述として最も適切なものを、次の①〜⑤のうちから選びなさい。(2018年実施41)

①学習を問題場面に関する認知構造の変化とみなした説であり、トールマンのサイン・ゲシュタルト説があげられる。

②学習を刺激と反応の結合の成立とみなした説であり、ワトソンの行動主義があげられる。

③学習を問題場面に関する認知構造の変化とみなした説であり、パヴロフの古典的条件付けがあげられる。

④学習を刺激と反応の結合の成立とみなした説であり、ソーンダイク の結合主義があげられる。

⑤学習を問題場面に関する認知構造の変化とみなした説であり、ハルの動因低減説があげられる。

(解)①

認知説の説明なので前半は「学習を問題場面に関する認知構造の変化とみなした説であり」が正しい。「学習を刺激と反応の結合の成立とみなした説」は連合説。

今回はここまでです。

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