3.2020 年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿
○ その際,従来の社会構造の中で行われてきた「正解主義」や「同調圧力」への偏りから脱却し, 本来の日本型学校教育の持つ, 授業において子供たちの思考を深める「発問」を重視してきたことや,子供一人一人の多様性と向き合いながら一つのチーム(目標を共有し活動を共に行う集団)としての学びに高めていく,という強みを最大限に生かしていくことが重要である。
○ 誰一人取り残すことのない,持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向け,学習指導要領前文において「持続可能な社会の創り手」を求める我が国を含めた世界全体で,SDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいる中で,ツールとしての ICT を基盤としつつ,日本型学校教育を発展させ,2020 年代を通じて実現を目指す学校教育を「令和の日本型学校教育」と名付け,まずその姿を以下のとおり描くことで,目指すべき方向性を社会と共有することとしたい。
(1)子供の学び
○ 新型コロナウイルス感染症の感染拡大による臨時休業の長期化により,多様な子供一人一人が自立した学習者として学び続けていけるようになっているか,という点が改めて焦点化されたところであり,これからの学校教育においては,子供がICT も活用しながら自ら学習を調整しながら学んでいくことができるよう,「個に応じた指導」を充実することが必要である。この「個に応じた指導」の在り方を,より具体的に示すと以下のとおりである。
○ 全ての子供に基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ,思考力・判断力・表現力等や,自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む態度等を育成するためには,教師が支援の必要な子供により重点的な指導を行うことなどで効果的な指導を実現することや,子供一人一人の特性や学習進度,学習到達度等に応じ,指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなどの「指導の個別化」が必要である。
○ 基礎的・基本的な知識・技能等や,言語能力,情報活用能力,問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力等を土台として,幼児期からの様々な場を通じての体験活動から得た子供の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じ,探究において課題の設定,情報の収集,整理・分析,まとめ・表現を行う等,教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで,子供自身が学習が最適となるよう調整する「学習の個性化」も必要である。
○ 以上の「指導の個別化」と「学習の個性化」を教師視点から整理した概念が「個に応じた指導」であり,この「個に応じた指導」を学習者視点から整理した概念が「個別最適な学び」である。
○ これからの学校においては,子供が「個別最適な学び」を進められるよう,教師が専門職としての知見を活用し, 子供の実態に応じて, 学習内容の確実な定着を図る観点や,その理解を深め,広げる学習を充実させる観点から,カリキュラム・マネジメントの充実・強化を図るとともに,これまで以上に子供の成長やつまずき,悩みなどの理解に努め,個々の興味・関心・意欲等を踏まえてきめ細かく指導・支援することや,子供が自らの学習の状況を把握し,主体的に学習を調整することができるよう促していくことが求められる。
○ その際,ICTの活用により,学習履歴(スタディ・ログ)や生徒指導上のデータ,健康診断情報等を蓄積・分析・利活用することや,教師の負担を軽減することが重要である。また,データの取扱いに関し,配慮すべき事項等を含めて専門的な検討を進めていくことも必要である。
○ さらに,「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう,これまでも「日本型学校教育」において重視されてきた, 探究的な学習や体験活動などを通じ,子供同士で,あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,様々な社会的な変化を乗り越え,持続可能な社会の創り手となることができるよう,必要な資質・能力を育成する「協働的な学び」を充実することも重要である。
○ 「協働的な学び」においては,集団の中で個が埋没してしまうことがないよう,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげ,子供一人一人のよい点や可能性を生かすことで,異なる考え方が組み合わさり,よりよい学びを生み出していくようにすることが大切である。「協働的な学び」において,同じ空間で時間を共にすることで,お互いの感性や考え方等に触れ刺激し合うことの重要性について改めて認識する必要がある。人間同士のリアルな関係づくりは社会を形成していく上で不可欠であり,知・徳・体を一体的に育むためには,教師と子供の関わり合いや子供同士の関わり合い,自分の感覚や行為を通して理解する実習・実験,地域社会での体験活動,専門家との交流など,様々な場面でリアルな体験を通じて学ぶことの重要性が,AI 技術が高度に発達するSociety5.0 時代にこそ一層高まるものである。
○ また,「協働的な学び」は,同一学年・学級はもとより,異学年間の学びや他の学校の子供との学び合いなども含むものである。知・徳・体を一体で育む「日本型学校教育」のよさを生かし,学校行事や児童会(生徒会)活動等を含め学校における様々な活動の中で異学年間の交流の機会を充実することで,子供が自らのこれまでの成長を振り返り,将来への展望を培うとともに,自己肯定感を育むなどの取組も大切である。
○ 学校における授業づくりに当たっては,「個別最適な学び」と「協働的な学び」の要素が組み合わさって実現されていくことが多いと考えられる。各学校においては,教科等の特質に応じ,地域・学校や児童生徒の実情を踏まえながら,授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし,更にその成果を「個別最適な学び」に還元するなど,「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげていくことが必要である。その際,家庭や地域の協力も得ながら人的・物的な体制を整え,教育活動を展開していくことも重要である。(…以下略…)
○ 以上のことを踏まえ,各学校段階において以下のような学びの姿が実現することを目指す。
④特別支援教育
○ 幼児教育,義務教育,高等学校教育の全ての教育段階において,障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念を構築することを旨として行われ, また, 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)や,今般の高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)の改正も踏まえ,全ての子供たちが適切な教育を受けられる環境を整備することが重要である。
○こうした重要性に鑑み,障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に教育を受けられる条件整備が行われており,また,障害のある子供の自立と社会参加を見据え,一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できるよう,通常の学級,通級による指導,特別支援学級,特別支援学校といった,連続性のある多様な学びの場の一層の充実・整備がなされている。
(2)教職員の姿
○ 教師が技術の発達や新たなニーズなど学校教育を取り巻く環境の変化を前向きに受け止め,教職生涯を通じて探究心を持ちつつ自律的かつ継続的に新しい知識・技能を学び続け,子供一人一人の学びを最大限に引き出す教師としての役割を果たしている。その際,子供の主体的な学びを支援する伴走者としての能力も備えている。
○ 教員養成,採用,免許制度も含めた方策を通じ,多様な人材の教育界内外からの確保や教師の資質・能力の向上により,質の高い教職員集団が実現されるとともに,教師と,総務・財務等に通じる専門職である事務職員,それぞれの分野や組織運営等に専門性を有する多様な外部人材や専門スタッフ等とがチームとなり,個々の教職員がチームの一員として組織的・協働的に取り組む力を発揮しつつ,校長のリーダーシップの下,家庭や地域社会と連携しながら,共通の学校教育目標に向かって学校が運営されている。
○ さらに,学校における働き方改革の実現や教職の魅力発信,新時代の学びを支える環境整備により,教師が創造的で魅力ある仕事であることが再認識され,教師を目指そうとする者が増加し,教師自身も志気を高め,誇りを持って働くことができている。
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