[03/11]2.日本型学校教育の成り立ちと成果,直面する課題と新たな動きについて

2.日本型学校教育の成り立ちと成果,直面する課題と新たな動きについて

(1)日本型学校教育の成り立ちと成果

○ こうした制度の下,学校が学習指導のみならず,生徒指導等の面でも主要な役割を担い,様々な場面を通じて,子供たちの状況を総合的に把握して教師が指導を行うことで,子供たちの知・徳・体を一体で育む「日本型学校教育」は,全ての子供たちに一定水準の教育を保障する平等性の面,全人教育という面などについて諸外国から高く評価されている。

(2) 略

(3)変化する社会の中で我が国の学校教育が直面している課題

①社会構造の変化と日本型学校教育

○ 我が国の教師は,子供たちの主体的な学びや,学級やグループの中での協働的な学びを展開することによって,自立した個人の育成に尽力してきた。その一方で,我が国の経済発展を支えるために,「みんなと同じことができる」「言われたことを言われたとおりにできる」上質で均質な労働者の育成が高度経済成長期までの社会の要請として学校教育に求められてきた中で,「正解(知識)の暗記」の比重が大きくなり,「自ら課題を見つけ,それを解決する力」を育成するため,他者と協働し,自ら考え抜く学びが十分なされていないのではないかという指摘もある。

○学習指導要領ではこれまで, 「個人差に留意して指導し,それぞれの児童(生徒)の個性や能力をできるだけ伸ばすようにすること」 (昭和 33(1958)年学習指導要領),「個性を生かす教育の充実」(平成元(1989)年学習指導要領等)等の規定がなされてきた。
その一方で,学校では「みんなで同じことを,同じように」を過度に要求する面が見られ,学校生活においても「同調圧力」を感じる子供が増えていったという指摘もある。社会の多様化が進み,画一的・同調主義的な学校文化が顕在化しやすくなった面もあるが,このことが結果としていじめなどの問題や生きづらさをもたらし,非合理的な精神論や努力主義,詰め込み教育等との間で負の循環が生じかねないということや,保護者や教師も同調圧力の下にあるという指摘もある。

○ また,核家族化,共働き家庭やひとり親家庭の増加など,家庭をめぐる環境が変化するとともに,都市化や過疎化等により地域の社会関係資本が失われ家庭や地域の教育力が低下する中で,本来であれば家庭や地域でなすべきことまでが学校に委ねられるようになり,結果として学校及び教師が担うべき業務の範囲が拡大され,その負担を増大させてきた。

②今日の学校教育が直面している課題

○ 現在の学校現場は以下に挙げるような様々な課題に直面している。日本型学校教育が,世界に誇るべき成果を挙げてくることができたのは,子供たちの学びに対する意欲や関心,学習習慣等によるものだけでなく,子供のためであればと頑張る教師の献身的な努力によるものである。教育は人なりと言われるように,我が国の将来を担う子供たちの教育は教師にかかっている。しかしながら,学校の役割が過度に拡大していくとともに,直面する様々な課題に対応するため,教師は教育に携わる喜びを持ちつつも疲弊しており,国において抜本的な対応を行うことなく日本型学校教育を維持していくことは困難であると言わざるを得ない。

(生徒の学習意欲の低下)

○ 文部科学省・厚生労働省「21 世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」によると,「楽しいと思える授業がたくさんある」という質問に対して,「とてもそう思う」「まあそう思う」と回答した割合は,第13 回調査(中学1年生時点)では74.8%,第15回調査(中学3年生時点)では 69.2%となっているが,これに対して,第 16 回調査(高等学校1年生時点)では66.3%, 第 17 回調査 (高等学校2年生時点) では56.4%となるなど,全体的な傾向として,特に高等学校において生徒の学校生活等への満足度や学習意欲が低下している。

(情報化の加速度的な進展に関する対応の遅れ)

○ 数学や科学に関するリテラシーは引き続き世界トップレベルである一方,言語能力や情報活用能力,デジタル時代における情報への対応(複数の文書や資料から情報を読み取って根拠を明確にして自分の考えを書くこと,テキストや資料自体の質や信ぴょう性を評価することなど)などの課題がある。また,子供たちのデジタルデバイスの使用について,我が国では,学校よりも家庭が先行し,「遊び」に多く使う一方「学び」には使わない傾向が明らかになった。

(新型コロナウイルス感染症の感染拡大により浮き彫りとなった課題)

○ しかしながら,公立学校の設置者を対象とした文部科学省の調査では,ICT 環境の整備が十分でないこと等により,このような状況で学びの保障の有効な手段の一つとなり得る「同時双方向型のオンライン指導」の実施状況は,公立学校の設置者単位で15%に留まっている。また,学校の臨時休業中,子供たちは,学校や教師からの指示・発信がないと, 「何をして良いか分からず」学びを止めてしまうという実態が見られたことから,これまでの学校教育では,自立した学習者を十分育てられていなかったのではないかという指摘もある。

(4)新たな動き

①新学習指導要領の全面実施

○ 社会の変化が加速度を増し,複雑で予測困難となってきているといった時代背景を踏まえた上で,新しい学習指導要領では資質・能力を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の3つの柱に整理した上で,よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し,どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを明確にしながら,学校教育を学校内に閉じず,地域の人的・物的資源も活用し,社会との連携及び協働によりその実現を図る 「社会に開かれた教育課程」を重視するとともに,学校全体で児童生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的・目標の実現に必要な教育内容等の教科等横断的な視点での組立て,実施状況の評価と改善,必要な人的・物的体制の確保などを通して,教育課程に基づく教育活動の質を向上させ,学習の効果の最大化を図る「カリキュラム・マネジメント」の確立を図ることとしている。また,各教科等の指導に当たっては,資質・能力が偏りなく育成されるよう,児童生徒の「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を行うこととしている。

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