今回から教育史を扱う。今回は17世紀以降の近代の教育界に登場した有名な3人の方々の紹介。
コメニウス(1592-1670) チェコ
近代の教育者として一番最初におさえておくべき人物はコメニウス。彼はすべての者が進学しうる単線型の学校制度,カリキュラム,学年,一斉授業など現在の学校制度につながる原型を作った。それまでも学校らしいものはあったのだが,年齢もやることもバラバラであった。現在の学校に近いものがコメニウスの登場でできることになったというわけである。
コメニウスの有名な著書として,2冊あげておく。
コメニウスのポイント
- 『大教授学』
→コメニウスの教授思想・技術が書かれた本。「あらゆる人に,あらゆる事柄を教授する普遍的な技法を提示する大教授学」 - 『世界図絵(せかいずえ)』
→世界初の絵入り教科書といわれるもの。文中の数字と図中の数字が対応しており,絵を見ながら文字を獲得していけるような構成。
現在では教科書に絵があるのは当たり前だが,『世界図会』が出された当時としては文字と絵を組み合わせるというのは画期的なアイディアであった。『大教授学』内にもあるコメニウスの「あらゆる人に」教育をしたいという思いが現れている。なお,Amazonで1000円ぐらいで訳本が買える。
ロック(1632-1704) イギリス
歴史の名誉革命などの項目で出てくる偉大すぎる思想家。教育についても影響を与えている。ロックの特徴は,後に紹介するルソーと比べて,ガンガン教育してやろうという姿勢が強いことである。
ロックは人間が生れながらに神の観念や特定の道徳的な傾向を持っているという考えを否定した。人間は目の前の快楽に走り,どのような手段を使っても苦痛を避けようとする。だからこそロックはそうした欲望を理性によって制御することが必要だと考えた。子どもの心は文字が全く書かれていない白紙(タブラ・ラサ)のようなもので,良き習慣を形成して徳の涵養(かんよう)へつなげることが重要と主張。
ロックの有名な著書はたくさんあるが,教育関係として次の2冊をあげておく。
ロックのポイント
- 『人間知性論(人間悟性論)』
→タブラ・ラサの説明が書いてある。生得説の否定。 - 『教育論(教育に関する考察)』
→しつけに関する記述が大部分を占めている。子どもは理性が十分に備わっていないので,親がそれを肩代わりしなければならない,とも。
ルソー(1712-1778) フランス
ルソーも偉大すぎる思想家だが,教育に関する思想は上で述べたロックとはだいぶ雰囲気が違う。
「子どもの発見」という言葉を聞いたことがあるだろうか。子どもは心身の発達に応じた教育が必要で,大人と同じことを押し付けるような教育観は人間性を押し殺すだけであり、やってはいけないと主張した。
今で言えばまぁそりゃそうだろうとなるが,当時は子どもの発達に応じた教育という考えは一般的ではなかったこともあり、大きな衝撃を与えた。ロックの方はガンガン鍛えてやろうという姿勢であったが,ルソーの方は本来子どもが持っている良い部分を伸ばしてやろうという感じで,「消極教育」とか「自然教育」とかいわれることもある。
ルソーのポイント
- 『エミール』
→エミールという一人の男の子と,その家庭教師のやり取りをフィクションとしてかいたもの。乳児期,幼児期,少年期,思春期,青年後期の5篇に分かれており,各成長過程に応じた教育の仕方を書いている。 - 消極教育
では演習!
演習問題
次の文の( )に適する人物を,次の選択肢の中からそれぞれ選べ。
(1) ( )は,世界最初の絵入り教科書『世界図絵』の著者としても知られ,万人に共通の普遍的知識の体系を学ぶ必要を説き,それを確実に学ぶための人間の自然に合致した合理的教育方法を追究した。
(2) ( )は,「万物をつくる者の手をはなれるときすべてはよいものであるが,人間の手にうつるとすべてが悪くなる」として,子供の自由な成長を保障する消極教育を主張した。
(3) ( )は,1791年に「公教育に関する5つの覚え書き」を発表し,公教育は国民に対する社会の義務だとする考えを明らかにした。
(4) ( )は,心を「すべての文字の書いていない,何の観念も持たない白紙である」として,経験こそが子供の発達に決定的役割を果たすと主張した。
【選択肢】ルソー,ロック,コメニウス,コンドルセ
解説
今回はここまでです!
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