1.3.1児童生徒理解
生徒指導に共通する方法として、児童生徒理解及び集団指導と個別指導の方法原理があります。まず、児童生徒理解について、考えてみましょう。
(1)複雑な心理・人間関係の理解
生徒指導の基本と言えるのは、教職員の児童生徒理解です。しかし、経験のある教職員であっても、児童生徒一人一人の家庭環境、生育歴、能力・適性、興味・関心等を把握することは非常に難しいことです。また、授業や部活動などで、日常的に児童生徒に接していても、児童生徒の感情の動きや児童生徒相互の人間関係を把握することは容易ではありません。さらに、スマートフォンやインターネットの発達によって、教職員の目の行き届かない仮想空間で、不特定多数の人と交流するなど、思春期の多感な時期にいる中学生や高校生の複雑な心理や人間関係を理解するのは困難を極めます。したがって、いじめや児童虐待の未然防止においては、教職員の児童生徒理解の深さが鍵となります。
(2)観察力と専門的・客観的・共感的理解
児童生徒理解においては、児童生徒を心理面のみならず、学習面、社会面、健康面、進路面、家庭面から総合的に理解していくことが重要です。また、学級・ホームルーム担任の日頃のきめ細かい観察力が、指導・援助の成否を大きく左右します。また、学年担当、教科担任、部活動等の顧問等による複眼的な広い視野からの児童生徒理解に加えて、養護教諭、SC、SSWの専門的な立場からの児童生徒理解を行うことが大切です。この他、生活実態調査、いじめアンケート調査等の調査データに基づく客観的な理解も有効です。特に、教育相談では、児童生徒の声を、受容・傾聴し、相手の立場に寄り添って理解しようとする共感的理解が重要になります。
(3)児童生徒、保護者と教職員の相互理解の重要性
的確な児童生徒理解を行うためには、児童生徒、保護者と教職員がお互いに理解を深めることが大切です。児童生徒や保護者が、教職員に対して、信頼感を抱かず、心を閉ざした状態では、広く深い児童生徒理解はできません。児童生徒や保護者に対して、教職員が積極的に、生徒指導の方針や意味などについて伝え、発信して、教職員や学校側の考えについての理解を図る必要があります。例えば、授業や行事等で教職員が自己開示をする、あるいは、定期的な学級・ホームルーム通信を発行することなどを通して、児童生徒や保護者に教職員や学校に対する理解を促進することが大切です。
1.3.2集団指導と個別指導
集団指導と個別指導は、集団に支えられて個が育ち、個の成長が集団を発展させるという相互作用により、児童生徒の力を最大限に伸ばし、児童生徒が社会で自立するために必要な力を身に付けることができるようにするという指導原理に基づいて行われます。そのためには、教職員は児童生徒を十分に理解するとともに、教職員間で指導についての共通理解を図ることが必要です。
(1)集団指導
集団指導では、社会の一員としての自覚と責任、他者との協調性、集団の目標達成に貢献する態度の育成を図ります。児童生徒は役割分担の過程で、各役割の重要性を学びながら、協調性を身に付けることができます。自らも集団の形成者であることを自覚し、互いが支え合う社会の仕組みを理解するとともに、集団において、自分が大切な存在であることを実感します。指導においては、あらゆる場面において、児童生徒が人として平等な立場で互いに理解し信頼した上で、集団の目標に向かって励まし合いながら成長できる集団をつくることが大切です。
そのために、教職員には、一人一人の児童生徒が
① 安心して生活できる
② 個性を発揮できる
③ 自己決定の機会を持てる
④ 集団に貢献できる役割を持てる
⑤ 達成感・成就感を持つことができる
⑥ 集団での存在感を実感できる
⑦ 他の児童生徒と好ましい人間関係を築ける
⑧ 自己肯定感・自己有用感を培うことができる
⑨ 自己実現の喜びを味わうことができる
ことを基盤とした集団づくりを行うように工夫することが求められます。
(2)個別指導 略
1.3.3ガイダンスとカウンセリング
生徒指導の集団指導と個別指導に関連して、学習指導要領の第1章「総則」(小学校・中学校は第4、高等学校は第5款)で新設された「児童(生徒)の発達の支援」(以下、括弧内は、中学校と高等学校での表記)の「1児童(生徒)の発達を支える指導の充実」の「(1)学級経営(高等学校はホームルーム経営)の充実」において、以下のようにガイダンスとカウンセリングの双方による支援の重要性が明記されました。
学習や生活の基盤として、教師と児童(生徒)との信頼関係及び児童(生徒)相互のよりよい人間関係を育てるため、日頃から学級経営の充実を図ること。また、主に集団の場面で必要な指導や援助を行うガイダンスと、個々の児童(生徒)の多様な実態を踏まえ、一人一人が抱える課題に個別に対応した指導を行うカウンセリングの双方により、児童(生徒)の発達を支援すること。
生徒指導上の課題としては、小学校入学後に、うまく集団になじめない、学級が落ち着かないなどの小1プロブレムや、小学校から中学校に移行した際に、不登校児童生徒数や暴力行為の発生件数が増加するなどの中1ギャップが見られます。また、人間関係で多くの児童生徒が悩みを持ち、学習面の不安だけでなく、心理面や進路面での不安や悩みを抱えることも少なくありません。そのような課題に対しては、教職員が児童生徒や学級・ホームルームの実態に応じて、ガイダンスという観点から、学校生活への適応やよりよい人間関係の形成、学習活動や進路等における主体的な取組や選択及び自己の生き方などに関して、全ての児童生徒に、組織的・計画的に情報提供や説明を行います。場合によっては、社会性の発達を支援するプログラム(ソーシャル・スキル・トレーニングやソーシャル・エモーショナル・ラーニング等)などを実施します。
また、カウンセリングという観点からは、児童生徒一人一人の生活や人間関係などに関する悩みや迷いなどを受け止め、自己の可能性や適性についての自覚を深めるように働きかけたり、適切な情報を提供したりしながら、児童生徒が自らの意志と責任で選択、決定することができるようにするための相談・助言等を個別に行います。
ガイダンスとカウンセリングは、教員、SC、SSW等が協働して行う生徒指導において、児童生徒の行動や意識の変容を促し、一人一人の発達を支える働きかけの両輪として捉えることができます。
1.3.4チーム支援による組織的対応
深刻化、多様化、低年齢化する生徒指導の諸課題を解決するためには、前述のように、学級・ホームルーム担任が一人で問題を抱え込まずに生徒指導主事等と協力して、機動的連携型支援チームで対応することが求められます。また、対応が難しい場合は、生徒指導主事や教育相談コーディネーター、学年主任、養護教諭、SC、SSW等校内の教職員が連携・協働した校内連携型支援チームによる組織的対応が重要となります。さらに、深刻な課題は、校外の関係機関等との連携・協働に基づくネットワーク型支援チームによる地域の社会資源を活用した組織的対応が必要になります。課題早期発見対応や困難課題対応的生徒指導においては、チームによる指導・援助に基づく組織的対応によって、早期の課題解決を図り、再発防止を徹底することが重要です。また、発達支持的生徒指導や課題未然防止教育においても、チームを編成して学校全体で取組を進めることが求められます。
(以下略)
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