3.6 生徒指導に関する法制度等の運用体制
3.6.1 校則の運用・見直し
(1)校則の意義・位置付け
児童生徒が遵守すべき学習上、生活上の規律として定められる校則は、児童生徒が健全な学校生活を送り、よりよく成長・発達していくために設けられるものです。校則は、各学校が教育基本法等に沿って教育目標を実現していく過程において、児童生徒の発達段階や学校、地域の状況、時代の変化等を踏まえて、最終的には校長により制定されるものです。
校則の在り方は、特に法令上は規定されていないものの、これまでの判例では、社会通念上合理的と認められる範囲において、教育目標の実現という観点から校長が定めるものとされています。また、学校教育において社会規範の遵守について適切な指導を行うことは重要であり、学校の教育目標に照らして定められる校則は、教育的意義を有するものと考えられます。
校則の制定に当たっては、少数派の意見も尊重しつつ、児童生徒個人の能力や自主性を伸ばすものとなるように配慮することも必要です。
(2)校則の運用
校則に基づく指導を行うに当たっては、校則を守らせることばかりにこだわることなく、何のために設けたきまりであるのか、教職員がその背景や理由についても理解しつつ、児童生徒が自分事としてその意味を理解して自主的に校則を守るように指導していくことが重要です。そのため、校則の内容について、普段から学校内外の関係者が参照できるように学校のホームページ等に公開しておくことや、児童生徒がそれぞれのきまりの意義を理解し、主体的に校則を遵守するようになるために、制定した背景等についても示しておくことが適切であると考えられます。
その上で、校則に違反した場合には、行為を正すための指導にとどまるのではなく、違反に至る背景など児童生徒の個別の事情や状況を把握しながら、内省を促すような指導となるよう留意しなければなりません。
(3)校則の見直し
校則を制定してから一定の期間が経過し、学校や地域の状況、社会の変化等を踏まえて、その意義を適切に説明できないような校則については、改めて学校の教育目的に照らして適切な内容か、現状に合う内容に変更する必要がないか、また、本当に必要なものか、絶えず見直しを行うことが求められます。さらに、校則によって、教育的意義に照らしても不要に行動が制限されるなど、マイナスの影響を受けている児童生徒がいないか、いる場合にはどのような点に配慮が必要であるか、検証・見直しを図ることも重要です。
校則は、最終的には校長により適切に判断される事柄ですが、その内容によっては、児童生徒の学校生活に大きな影響を及ぼす場合もあることから、その在り方については、児童生徒や保護者等の学校関係者からの意見を聴取した上で定めていくことが望ましいと考えられます。また、その見直しに当たっては、児童会・生徒会や保護者会といった場において、校則について確認したり議論したりする機会を設けるなど、絶えず積極的に見直しを行っていくことが求められます。そのためには、校則を策定したり、見直したりする場合にどのような手続きを踏むことになるのか、その過程についても示しておくことが望まれます。
なお、校則の見直しに関して、例えば、以下のような取組により、校則に向き合う機会を設けている学校や教育委員会もあります。
① 学校における取組例
•各学級で校則や学校生活上の規則で変更してほしいこと、見直してほしいことを議論。
•生徒会やPTA会議、学校評議員会において、現行の校則について、時代の要請や社会常識の変化等を踏まえ、見直しが必要な事項について意見を聴取。
•児童生徒や保護者との共通理解を図るため、校則をホームページに掲載するとともに、入学予定者等を対象とした説明会において、校則の内容について説明。
② 教育委員会における取組例
•校則の内容、見直し状況について実態調査を実施。
•学校等の実態に即した運用や指導ができているか等の観点から、必要に応じて校則を見直すよう依頼。
•校則を学校のホームページへ掲載するとともに、校則について生徒が考える機会を設けられるよう改定手続きを明文化するなど、児童生徒・保護者に周知するよう依頼。
(4)児童生徒の参画
校則の見直しの過程に児童生徒自身が参画することは、校則の意義を理解し、自ら校則を守ろうとする意識の醸成につながります。また、校則を見直す際に児童生徒が主体的に参加し意見表明することは、学校のルールを無批判に受け入れるのではなく、自身がその根拠や影響を考え、身近な課題を自ら解決するといった教育的意義を有するものとなります。
3.6.2 懲戒と体罰、不適切な指導
学校における懲戒とは、児童生徒の教育上必要があると認められるときに、児童生徒を叱責したり、処罰したりすることです。懲戒は、学校における教育目的を達成するために、教育的配慮の下に行われなければなりません。その際には、組織的に指導の方向性や役割分担を検討した上で、児童生徒の特性や心情に寄り添いながら本人や関係者の言い分をしっかりと聴くとともに、それ以外にも必要な情報を収集するなどして、事実関係の確認を含めた適正な手続きを経るようにする必要があります。指導後においても、児童生徒を一人にせず、心身の状況の変化に注意を払うことに留意するとともに、保護者等の理解と協力を得られるようにしていくことが重要です。
懲戒には、児童生徒への叱責、起立、居残り、宿題や清掃当番の割当て、訓告など、児童生徒の教育を受ける地位や権利に変動をもたらす法的効果を伴わない、事実行為としての懲戒と呼ばれるものがあります。また、退学や停学といった法的効果を伴う懲戒もあります。退学は、児童生徒の教育を受ける権利を奪うものであり、停学はその権利を一定期間停止するものです。
懲戒は、学校教育法第11条に規定されていますが、その手続きについて法令上の規定はありません。しかし、懲戒を争う訴訟や損害賠償請求訴訟が提起される場合もあり、学校は懲戒に関する基準をあらかじめ明確化し、児童生徒や保護者に周知し、理解と協力を得るように努めることが求められます。
学校における児童生徒への体罰は、文部科学省の調査によれば、年々減少傾向にありますが、いまもなお発生しています。体罰は、学校教育法第11条で明確に禁止されており、懲戒と体罰に関する解釈・運用については、「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」(平成25年3月13日初等中等教育局長、スポーツ・青少年局長通知)において、以下のとおり示されています。
(1)体罰等の禁止及び懲戒について
体罰による指導では、児童生徒に正常な倫理観を養うことはできず、むしろ力による解決への志向を助長することになりかねません。体罰によることなく、児童生徒の規範意識や社会性の育成を図るよう、適切に懲戒を行い、粘り強く指導することが重要です。
(2)懲戒と体罰の区別について
懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的・時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的かつ客観的に考え、個々の事案ごとに判断する必要があります。これらのことを勘案して、懲戒の内容が、身体に対する侵害や肉体的苦痛を与えると判断される場合には、体罰になります。
(3)正当防衛及び正当行為について
教職員が児童生徒による暴力行為の防衛のためにやむを得ず行った行為は、児童生徒の身体への侵害や肉体的苦痛を与えた場合であっても体罰には該当しません。
(4)体罰の防止と組織的な指導体制について 略
(5)部活動における不適切な指導について 略
3.6.3 出席停止制度の趣旨と運用
(1)出席停止の要件
学校教育法第35条第1項では、出席停止の適用に当たって、性行不良であること、他の児童生徒の教育に妨げがあると認められること、という二つの基本的な要件を示しています。
また、性行不良について、「他の児童に障害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為」「職員に傷害又は心身の苦痛を与える行為」「施設又は設備を損壊する行為」「授業その他の教育活動の実施を妨げる行為」の四つの行為を類型として例示し、その「一又は二以上を繰り返し行う」ことを出席停止の適用の要件として規定しています。
学校は、出席停止の適用について検討する中で、出席停止制度の趣旨と意義を踏まえ、要件に該当すると判断した場合には、出席停止を命じる権限と責任を有する市町村教育委員会に報告することになります。
(2)出席停止の事前手続と適用
学校教育法第35条第2項では、出席停止を命じる場合、市町村教育委員会は、「あらかじめ保護者の意見を聴取するとともに、理由及び期間を記載した文書を交付しなければならない」と規定しています。意見の聴取を通じて保護者の言い分も聞き、そのために出席停止の理由も文書に付記しておかなければならないということです。
学校は、問題行動を起こす児童生徒の状況を市町村教育委員会に報告し、必要な指示や指導を受けるとともに、保護者の理解と協力が得られるよう努めるなど、市町村教育委員会と十分に連携できる体制を整える必要があります。場合によっては、警察や児童相談所等の関係機関との連携を図ることも考えられます。
(3)出席停止の措置の適用
市町村教育委員会は、教育委員会規則の規定に則り、事前手続を進め出席停止の適用を決定した場合、出席停止を命じる児童生徒の保護者に対して、理由及び期間を記した文書を交付します。学校は、教育委員会の指示や指導により、校長等がその場に立ち会うなどの対応を行うことが想定されます。
(4)出席停止の期間中及び事後の対応
学校教育法第35条第4項では、市町村教育委員会は、「出席停止の期間における学習に対する支援その他の教育上必要な措置を講ずる」と規定しています。学校は、教育委員会の指示や指導を受けながら、当該児童生徒に対する指導体制を整備し、学習の支援など教育上必要な措置を講じるとともに、学校や学級へ円滑に復帰することができるよう指導や援助に努めることが必要です。
また、他の児童生徒への適切な指導や被害者である児童生徒への心のケアにも配慮することが大切です。出席停止の期間終了後においても、保護者や関係機関との連携を強めながら、当該児童生徒に対する指導・援助を継続することが求められます。
3.7 学校・家庭・関係機関等との連携・協働 略
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