[10/13]第4章 いじめ

第II部 個別の課題に対する生徒指導

第4章 いじめ

4.1 いじめ防止対策推進法等

4.1.1 法の成立までの経緯

平成23年に発生したいじめ自殺事件を契機として、平成25年6月に「いじめ防止対策推進法」(以下「法」という。)が成立し、同年9月から施行されました。法の成立は、いじめ防止に社会総がかりで取り組む決意を示すと同時に、いじめが児童生徒の自浄作用や学校の教育的指導に頼るだけでは解決が難しいほどに深刻化し、制御のために法的介入が行われることになったものと捉えることができます。その意味において、法制化は、学校におけるいじめ対応に大きな転換を迫るものであると受け止める必要があります。

4.1.2 法の目的といじめの定義

法の目指すところは、第1条に以下のように示されています。

いじめが、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるものであることに鑑み、児童等の尊厳を保持するため、(中略)いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的とする。

いじめは、相手の人間性とその尊厳を踏みにじる「人権侵害行為」であることを改めて共通認識し、人権を社会の基軸理念に据えて、社会の成熟を目指すという決意が表明されています。

(以下略)

4.2 いじめの防止等の対策のための組織と計画 略

4.3 いじめに関する生徒指導の重層的支援構造

(…略…)

4.3.1 いじめ防止につながる発達支持的生徒指導

いじめに取り組む基本姿勢は、人権尊重の精神を貫いた教育活動を展開することです。したがって、児童生徒が人権意識を高め、共生的な社会の一員として市民性を身に付けるような働きかけを日常の教育活動を通して行うことが、いじめ防止につながる発達支持的生徒指導と考えることができます。

児童生徒が、「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」ができる人権感覚を身に付けるように働きかけるためには、教職員が、一人一人の児童生徒が大切にされることを目指す人権教育と生徒指導は密接な関係にあり、いじめ防止につながる相乗的な効果を持つものであることを意識することが必要です。

また、市民性を育む教育を行うことも重要です。いじめ防止につながるという視点からは、発達段階に応じた教育を通じて、「誰もが法によって守られている」、「法を守ることによって社会の安全が保たれる」という意識を高めるとともに、学校に市民社会のルールを持ち込むことも必要です。その際、児童生徒のみならず、教職員も保護者も、学校に関係する地域の人々も、市民社会のルールを尊重することが求められます。

児童生徒が「多様性を認め、人権侵害をしない人」へと育つためには、学校や学級が、人権が尊重され、安心して過ごせる場となることが必要です。こうした学校・学級の雰囲気を経験することによって、児童生徒の人権感覚や共生感覚は養われます。

したがって、「全ての児童生徒にとって安全で安心な学校づくり・学級づくり」を目指すことも、いじめ防止につながる発達支持的生徒指導と捉えることができます。その際、児童生徒の基本的人権に十分に配慮しつつ、次のような点に留意することが重要です。

① 「多様性に配慮し、均質化のみに走らない」学校づくりを目指す

集団教育の場である学校、学級・ホームルームにおいて凝集性を高めることは必要ですが、行きすぎて同調圧力が強まると、多様性を認め合うことが難しくなりかねません。教室に、様々な異なる考えや意見を出し合える自由な雰囲気を確保し、児童生徒がお互いの違いを理解し、「いろいろな人がいた方がよい」と思えるように働きかけることが大切です。

②児童生徒の間で人間関係が固定されることなく、対等で自由な人間関係が築かれるようにする

学力以外にも様々な観点から、児童生徒が興味を抱くこと、好きになれること、夢中になれることを、学校生活において、どれだけ提供することができるのかが重要です。自分のやろうとすることが認められ、応援してもらっていると感じて初めて、学校が居場所であると思えるようになります。

③「どうせ自分なんて」と思わない自己信頼感を育む

自己への信頼とは、主体的に取り組む共同の活動を通して他者から認められ、他者の役に立っていると実感することによって育まれると考えられます。例えば、積極的に「異年齢交流」に取り組むことで、いじめや不登校、暴力行為が大きく減ったという報告もあります。お互いに助け合いながら、学級・ホームルームの係活動や児童会・生徒会活動などにおいて何ができるのか、ということについて児童生徒自身が考える機会を用意することも大切です。

④「困った、助けて」と言えるように適切な援助希求を促す

困ったときや悩みがあるときに、隠して耐えるのではなく、弱音を吐いたり、人に頼ったりすることができる雰囲気があるかどうかは、児童生徒の学校での安全・安心を大きく左右します。成長途上にある児童生徒が、甘えたり、弱音を吐いたりして、信頼できる大人(教職員や保護者等)に援助希求を表出することは、「適切に依存できる」ネットワークを築いて「自立」(大人になること)へと踏み出す一歩であると理解することが大切です。「困った、助けて」と言える雰囲気と、「困った」をしっかり受け止めることができる体制を学校の中に築くことが求められます。

(以下略)

4.3.2 いじめの未然防止教育

(…略…)

(1)いじめる心理から考える未然防止教育の取組

(…略…)

児童生徒がいじめの問題を自分のこととして捉え、考え、議論することにより、いじめに対して正面から向き合うことができるような実践的な取組を充実させることが、いじめの未然防止教育として重要です。

また、いじめの衝動を発生させる原因としては、

① 心理的ストレス(過度のストレスを集団内の弱い者を攻撃することで解消しようとする)

② 集団内の異質な者への嫌悪感情(凝集性が過度に高まった学級・ホームルーム集団では、基準から外れた者に対して嫌悪感や排除意識が向けられることがある)

③ ねたみや嫉妬感情

④ 遊び感覚やふざけ意識

⑤ 金銭などを得たいという意識

⑥ 被害者となることへの回避感情

などが挙げられます。

いじめの加害者の心の深層には、不安や葛藤、劣等感、欲求不満などが潜んでいることが少なくないと思われます。さらに、「自分がなぜいじめに走ってしまうのか」、「どうしていじめることでしか気持ちが保てないのか」ということに無自覚である場合も多く、丁寧な内面理解に基づく働きかけが必要になります。

児童生徒自身が自分の感情に気付き適切に表現することについて学んだり、自己理解や他者理解を促進したりする心理教育の視点を取り入れたいじめ防止の取組を行うことも未然防止教育として重要です。

(2)いじめの構造から考える未然防止教育の方向性

いじめはいじめる側といじめられる側という二者関係だけで生じるものではありません。「観衆」としてはやし立てたり面白がったりする存在や、周辺で暗黙の了解を与える「傍観者」の存在によって成り立ちます。

いじめを防ぐには、「傍観者」の中から勇気をふるっていじめを抑止する「仲裁者」や、いじめを告発する「相談者」が現れるかどうかがポイントになります。

日本のいじめの多くが同じ学級・ホームルームの児童生徒の間で発生することを考えると、学級・ホームルーム担任が、いじめられる側を「絶対に守る」という意思を示し、根気強く日常の安全確保に努める取組を行うなどして担任への信頼感と学級・ホームルームへの安心感を育み、学級・ホームルーム全体にいじめを許容しない雰囲気を浸透させることが重要です。

(以下略)

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