[01/08] 1 障害のある子供の教育に求められること

第1編 障害のある子供の教育支援の基本的な考え方

1 障害のある子供の教育に求められること

(1)障害のある子供の教育に関する制度の改正

平成18年12月,国連総会において,「障害者の権利に関する条約」が採択され,我が国は平成19年9月に同条約に署名し,平成26年1月に批准した。

同条約は,全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し,保護し,及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とし,いわゆる「合理的配慮(Reasonable Accommodation)」や,教育に関しては「インクルーシブ教育システム(Inclusive Education System)」等の理念を提唱する内容となっている。

我が国においては同条約を批准し,この間,障害のある子供の教育に関する各般の取組を進めてきている。

平成 18 年の教育基本法改正においては,「国及び地方公共団体は,障害のある者が,その障害の状態に応じ,十分な教育を受けられるよう,教育上必要な支援を講じなければならない。」(第4条第2項)との規定が新設された。また,平成19年の学校教育法改正においては,障害のある子供の教育に関する基本的な考え方について,特別な場で教育を行う「特殊教育」から,子供一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導及び必要な支援を行う「特別支援教育」への発展的な転換が行われた。

平成 23年の障害者基本法改正においても,「国及び地方公共団体は,障害者が,その年齢及び能力に応じ,かつ,その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため,可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ,教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。」(第 16条第1項),「国及び地方公共団体は,前項の目的を達成するため,障害者である児童及び生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに,可能な限りその意向を尊重しなければならない。」(第16 条第2項)等の規定が整備された。

さらに,中央教育審議会初等中等教育分科会においては,平成24 年7月に「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 」(以下「中央教育審議会初等中等教育分科会報告」という。)が取りまとめられ,これを踏まえ,障害のある子供の就学先決定の仕組みに関する学校教育法施行令の改正が行われ,平成25年9月1日に施行された。

また,平成 28 年4月1日には, 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」 (以下「障害者差別解消法」という。)が施行され,不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供が求められるとともに,同法に基づき,関連して, 「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(平成 27年文部科学省告示第 180号)が示された。

このように,我が国では, 「障害者の権利に関する条約」に掲げられたインクルーシブ教育システムの構築を目指し,特別支援教育を更に推進していくために,制度改正が行われてきたところである。

こうした状況を踏まえ,令和元年9月より「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」で議論が行われ,令和3年1月に報告が取りまとめられた。本報告においては,特別支援教育を巡る状況の変化も踏まえ,インクルーシブ教育システムの理念を実現し,特別支援教育を進展させていくために,引き続き,障害のある子供の自立と社会参加を見据え,子供一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できるよう,連続性のある多様な学びの場の一層の充実・整備などを着実に進めていくことや,それらを更に推進するため,障害のある子供の教育的ニーズの変化に応じ,学びの場を変えられるよう,多様な学びの場の間で教育課程が円滑に接続することによる学びの連続性の実現を図ることなどについての方策が取りまとめられた。これにより,障害の有無に関わらず誰もがその能力を発揮し,共生社会の一員として共に認め合い,支え合い,誇りをもって生きられる社会の構築を目指すこととしている。

(2)就学に関する新しい支援の方向性

学校教育は,障害のある子供の自立と社会参加を目指した取組を含め,「共生社会」の形成に向けて,重要な役割を果たすことが求められている。そのためにも「共生社会」の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進が必要とされている。

インクルーシブ教育システムの構築のためには,障害のある子供と障害のない子供が,可能な限り同じ場で共に学ぶことを目指すべきであり,その際には,それぞれの子供が,授業内容を理解し,学習活動に参加している実感・達成感をもちながら,充実した時間を過ごしつつ,生きる力を身に付けていけるかどうかという最も本質的な視点に立つことが重要である。

そのための環境整備として, 子供一人一人の自立と社会参加を見据えて,その時点での教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる,多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。このため,小中学校等における通常の学級,通級による指導,特別支援学級や,特別支援学校といった,連続性のある「多様な学びの場」を用意していくことが必要である。

教育的ニーズとは,子供一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等(以下「障害の状態等」という。)を把握して,具体的にどのような特別な指導内容や教育上の合理的配慮を含む支援の内容が必要とされるかということを検討することで整理されるものである。そして,こうして把握・整理した,子供一人一人の障害の状態等や教育的ニーズ,本人及び保護者の意見,教育学,医学,心理学等専門的見地からの意見,学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から, 就学先の学校や学びの場を判断することが必要である。

教育的ニーズを整理するために

対象となる子供の教育的ニーズを整理する際,最も大切にしなければならないことは,子供の自立と社会参加を見据え,その時点でその子供に最も必要な教育を提供することである。そうした教育的ニーズを整理するには,三つの観点(①障害の状態等,②特別な指導内容,③教育上の合理的配慮を含む必要な支援の内容)を踏まえることが大切である。

(…後略…)

さらに,全ての学びの場において, 障害のある子供と障害のない子供が共に学ぶ取組を,年間を通じて計画的に実施することが必要である。小中学校等内において,特別支援学級と通常の学級との間の日常的な交流及び共同学習を推進することはもちろんのこと,特別支援学校と小中学校等との間の交流及び共同学習を積極的に推進することが必要である。特に,特別支援学校に在籍する子供は,居住する地域から離れた学校に通学していることにより,居住する地域とのつながりをもちにくい場合がある。このため,都道府県教育委員会,市区町村教育委員会,特別支援学校及び小中学校等が密接に連携し,特別支援学校に在籍する子供が,居住する地域の小中学校等に在籍する子供と共に学ぶ取組を,年間を通じて計画的に実施することが求められる。これに関して, 一部の地域で取り組まれている特別支援学校に在籍する子供が居住する地域の学校に副次的な籍を置く取組は,居住する地域との結び付きを強めたり,居住する地域の学校との交流及び共同学習を継続的に推進したりする上でも有意義であり,一層その普及を図っていくことが重要である。

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